保存コンサルタント、ヒュー・フィブス氏による寄稿
ミュージアムに展示されている貴重な作品は、相反する課題を抱えています。美術品は鑑賞されると同時に保護される必要があり、最適な鑑賞条件が保存上の問題を引き起こす可能性があるからです。来館者は、保護用の額装用ガラス・アクリルがない明るい光の下でコレクションを鑑賞することを好みますが、このような条件は、過度の光への露出や、空気汚染、来館者の接触、さらには会話中の飛沫など、多くの脅威による損傷を招く恐れがあります。
絵画は合成ニスのようなコーティング剤で保護することも可能ですが、これらの材料は酸化や劣化の恐れがあり、その除去作業には危険が伴います。16世紀には、小さなガラス板しか入手できなかったため、小型の絵画(ミニアチュール)が最初に保護ガラスの恩恵を受けることとなりました。18世紀半ばに建築用の透明ガラスが開発される前は、絵画はフレームに取り付けられたカーテンで保護されることもありました。また、薄く削ったべっ甲が使用されることもありました。
19世紀になり、円筒ガラスがより大きなサイズで製造可能になると、ロンドンのテート・ギャラリーは背板とガラスを組み合わせて絵画の保護を開始し、目覚ましい成果を上げました。
20世紀前半、米国の美術館ではほとんどの絵画を保護用の額装用ガラス・アクリルなしで展示していました。多くの古い絵画の暗い表面はガラスの反射を強くしてしまうため、ガラスの使用はレオナルドやフェルメールといった巨匠の作品に限定されていました。20世紀後半になると反射防止ガラスが登場し、保護のメリットと視認性のリスクのバランスが変化し始めました。
米国で最初に製造された反射防止コーティングは鉄分の多いガラスに施されており、光学性能は完璧とは言えませんでした。合わせガラスにするとかなり濃い緑色になり、用途が限定されていました。一方、ヨーロッパでは、低鉄ガラスを使用した反射防止コーティングの合わせガラスが製造され、審美的に非常に優れた成果を上げました。前世紀の後半には、反射防止ガラスとその合わせガラスの形態がシート状の額装用ガラスの役割を拡大させ、より多くの作品が貸出や長期展示に対応できるようになりました。
これに加えて、審美的に優れた帯電防止機能と99% UVカット機能を備え、ガラスよりも軽量で破損しにくいOptium Museum Acrylic®の技術進歩により、額装用ガラス・アクリルを採用するメリットが上回るようになりました。現在では、多くの美術館間貸出や長期展示における標準的な仕様となっています。
Optium®の使用に際して留意すべき点の一つに、アクリル板は片面がもう一方の面より湿っていたり乾いていたりすると反り(ワーピング)が生じるという性質があります。つまり、Optium®を密封されたケースの一部として使用し、厳しい気候条件の場所に移動させる場合は、この反りの可能性を考慮する必要があります。UltraVue® Laminated Glassのような合わせガラスは反りの問題の影響を受けず、防湿性(不透過性)に優れているため、長期の密封展示ケースに適しています。その際は、重量と破損のしやすさのみを検討事項とすればよいのです。
今日、屋外の太陽光にさらされない室内で、適切に照明された反射防止ガラス・アクリルは、鑑賞者にとって実質的に見えない存在となります。これは保存における大きな進歩です。なぜなら、最も貴重な作品を、汚染や害虫、来館者とのあらゆる接触から保護しながら展示できるようになったからです。薄膜コーティングの反射をさらに抑え、ガラスの反らない利点とアクリルの飛散防止性を統合させる将来の技術進歩は、この重要な保存の歴史に新たな一ページを刻むことでしょう。
著者紹介
ヒュー・フィブス
保存コンサルタント
ヒュー・フィブス氏は、1976年にワシントンD.C.で商業用額装の仕事を始めました。3年後、ナショナル・ギャラリー(ワシントン)の保存部門に加わりました。同ギャラリーでは、紙修復ラボおよび展覧会・貸出部門に所属し、紙作品、書籍、板絵の貸出に際しての保存管理を担当しました。氏は『Picture Framing Magazine』や『Journal of the American Institute of Conservation』に保存に関する寄稿を行っています。また、スミソニアン・レジデント・アソシエイツ・プログラム、プロフェッショナル・ピクチャー・フレーマーズ協会(PPFA)、アメリカ保存修復学会(AIC)、フランス・アルルの書物保存センター(CCL)、パリの国立文化財研究所(INP)などで保存クラスの講師を務めてきました。ルーヴル美術館、エルミタージュ美術館、メトロポリタン美術館、ゲッティ美術館、MoMA、ハーバード大学図書館、スミソニアン美術館のスタッフを対象としたワークショップも実施しています。氏はAICのプロフェッショナル・アソシエイトであり、University Products Lifetime Achievement Award(生涯功労賞)を受賞しています。2014年にナショナル・ギャラリーを退職した後も、保存に関する執筆や指導を続け、同分野の革新に取り組んでいます。
